楽園構想
先日藤井四段の指し手がコンピュータの指し手と一致したと話題になっておりました。これってつまり、コンピュータの考えた指し手こそ最善手で、人間はなかなかそこには及ばないが、藤井四段はコンピュータ様に近いという共通の理解が前提になった話なんでしょうね。
いかにもその通り、コンピュータの進化はすさまじく、ついこの間まで将棋や囲碁程度のボードゲームごときでも人間に追いつくのは難しいといか言っていたのに、あっという間に世界のトッププロさえ歯が立たないところまでいってしまいました。そりゃあ、あのボルトだって車より速く走れるわけはないし、この先人類がどんなにトレーニングを重ねたところで車を追い越すこともないでしょう。
コンピュータだって同じです。
現在研究の進む量子コンピュータが今の調子で能力を伸ばしたら、わずか5年後には従来型のスーパーコンピュータの能力の9000兆倍に達するという見方もあるくらいですから、もうコンピュータの進化は止められません。
こんな発展めざましい電脳世界に関し、実はいま、仲間と新しい老人養護施設の建設のための基金への出資を募っております。
「OIRakuen おいらくえん(仮称)」というのですが、これはサイバースペースに人生の人類の楽園を築こうというものなのです。
早い話が、人間の意識無意識の記憶や人格を根こそぎ電子データ化して、サイバースペースに移植してしまうという構想なのです。
これによって、人類は肉体の枷から解き放たれ、老いも病気もない世界で永遠の生命と快楽を手に入れることになるのですよね。
ついでにいうならば、手始めにやっかいな老人をデータ化してあっちの世界に送り込んでしまえば、医療問題も介護問題も暴走問題も老人がいつまでも会社に居座る問題もすべて解決してしまい、地球環境にもたぶん優しいだろうといわれております。
え?何で最初に電脳老人ホームなのかって?
そりゃあまだ、電脳世界には未知の部分もあるし、実際に運用してみなければわからない課題だってきっと出てくるに違いありません。
そんなところに有用で前途有望な人的資源を送り込むわけにはいかないじゃあないですか。
ますは老人ホームでシステム検証。大規模システム障害でデータロストなあんてことになっても、まあ老人だったんだから仕方がない。それが寿命だってことなんだ、というわけです。
ただ、今のうちから考えておくべき課題もあります。あっちに行った人間はシステム基盤の尽きるまでほとんど老化もせず半永遠の人生を送ることになります。システムの能力次第では人類を超えた何かに進化して人類と対立する事もあるかもしれません。
おいらくえん住民が予想外の進化を遂げてリアル人類と対立するようなことにならないように、おいらくえんはリアル世界に干渉できないよう厳格な管理下に置かねばなりません。
おいらくえんが暴走して人類殲滅のための兵器なんか作り始めたらかないませんからね。
そうなると、おいらくえんのシステムの基盤は隔離されたデータセンターみたいなものになる訳で、このセンター・システム基盤の膨大な維持費用はどうするという話もでてきます。これは楽園に引っ越した住民自ら働いて稼いでいただくしかありません。
データとプログラムの集合体であるおいらくえん住民は厳格な管理下の元、人類の世界の電算手順化されたさまざまな作業に従事いただく。
企業のちまちましたデータの仕訳だとか、顧客からの苦情電話対応だとか、従来は都度プログラムを作らなければならなかったけれど費用対効果で見送っていたようなことを処理に当たるとか。
まあ人格データのBOTリソース化といいいますか、IT作業人として 働いていただくのでしょうね。この結果らくえんと思った世界は人足置き場というか奴隷市場みたいになるかもしれませんが、まあ過渡期の事象としていたしかたありますまい。
でもこれってなんだ、プログラムデータじゃ自殺もできないでしょうし永遠に苦役に従事させられるだけって、昔は死後、地獄に堕ちたといったことかもしれません。
ありゃ?電脳楽園構想が地獄構想になってしまった。